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BABCP2012に参加して


 2012年6月26日から29日に開催された, 40th Annual Conference of British Association for Behavioural and Cognitive Psychotherapies (BABCP) に参加し, 研究発表をしてきました。大学院博士過程に在籍中であり, まだまだ未熟者の私にとって, 国際学会に参加し, 研究発表をしたという経験はとても貴重なものでした。今回は, その一端をご報告させて頂きます。

 学会が開催されたリーズは, イギリス北部に位置し, イギリス内で3~4番目に大きな都市と言われております。町の中心から30分も車で走れば, 牧草地に羊が群れているヨークシャーの美しい田舎の景色を堪能できます。学会のプログラムは, 初日にワークショップがあり, その後3日間で招待講演, シンポジウム, オーラル, ポスター, ケーススタディといった構成でした。ほとんどの参加者が, イギリスで活躍されている臨床家・研究者であり, 日本からは私を含めた4名が参加していました。

 初日は, 私が予てから尊敬していたAdam Radomskyによる, 強迫性障害のワークショップに参加してきました。ワークショプでは, 強迫性障害に対する曝露反応妨害法および行動実験の計画の仕方などを, 実際の症例を紹介しながら説明してくれました。特に, 参加者全員が, 手に苺ジャムをつけて「汚染恐怖の患者が感じている不快感と洗浄衝動を体験してみる」というワークはとても印象的でした。また, 「不道徳な男性に無理やりキスをされる」という性被害に遭ったストーリーを音声で聞き, それを具体的に想像することによって, 汚染感と洗浄衝動が生じるという精神的感染 (Mental Contamination) についても体験することができました。私の博士論文のテーマがこの精神的感染なので, その病理や治療的示唆に関する説明は, 大変興味深く聞くことができました。

 ワークショップ後の発表では, 様々な疾患に対する最新の研究発表が数多くありました。各セッションで扱われていた対象領域としては, 不安障害をテーマにした発表が多く, 強迫性障害, 社交不安障害, PTSDなどが特に目立っていました。中でも, 私が興味を惹かれたのは, Irena MilosevicやMark Freestonらの‘Role of Safety Behaviour’をテーマにしたシンポジウムでした。不安障害における安全行動 (Safety Behaviour; e.g., 公衆トイレを使用した後に手を洗う) とは, その行為を行うことで一時的に安心を得られるが, 症状を維持・増悪させてしまう要因であり, 治療においては, この安全行動を妨害し, 苦手な対象に曝露させることが重要であると, 私は考えていました。しかし, 近年の研究では, 治療の初期において, この安全行動を用いながら曝露療法を行うことが, 曝露療法に対する受容性 (Acceptability) を高めるという見解が支持されているそうです。例えば, 蛇恐怖のある実験参加者に対して, 「分厚い手袋」などの安全装備をさせて, 蛇に曝露 (接触) させます。その結果, この安全行動を用いた曝露は, 安全行動をさせない曝露反応妨害法と同等の改善結果を示したそうです。また, 安全行動を用いた曝露を実施した参加者は, 「蛇が興味深く見える」「蛇はそれほど危険ではない」といった認知的変化を報告しました。蛇恐怖だけではなく, 汚染対象 (e.g, トイレの便座) に対する安全行動を用いた曝露療法の実験においても, 安全行動を用いた曝露療法は, 通常の曝露反応妨害法と同等の効果を示していました。このような実験結果から, 強い汚染恐怖があり, 曝露反応妨害法に対する治療抵抗が高い患者に対しては, 治療初期の段階において, 安全行動を用いた曝露療法が有効ではないかと示唆されました。Adam Radomskyは, このような技術をExposure with Safety Behaviour (ESB) と呼んでいました。今後は, 実際の患者を対象にした臨床研究も行われるそうです。勿論, 不安障害の臨床に長年携わってきた経験豊富な先生からすれば, 既に承知の事実だったかもしれませんし, 普段から, そのような工夫を取り入れた臨床活動を行っているのかもしれません。しかし, 私のような経験の浅い治療者からすると, 「安全行動を用いた曝露療法が, 曝露反応妨害法と同等の効果がある」という結果が実験的に証明されたことは, 大変興味深く感じました。

 日常の生活に戻った今も, あの4日間を振り返ってみると, 本当に貴重な体験ばかりだったと思いました。参加の機会をいただきましたことを感謝するとともに, 得られた知識を日々の臨床・研究に還元し, それを社会に発信していきたいと思います。

千葉大学大学院医学研究院 子どものこころの発達研究センター
特任研究員 石川亮太郎